「まだローンの支払いが2年残っているけど、家族が増えたから乗り換えたい」
「毎月の支払いがキツくなったから、車を手放して楽になりたい」
日々、私の店舗にもこのような相談が多く寄せられます。
ネット上には「ローン返済中の車は売れない」といった誤情報もありますが、現役の車屋社長として結論を断言します。
ローンが残っていても、車は問題なく売れます。
ただし、手順を間違えると「売ったのに借金だけが残る」という最悪の事態になりかねません。
この記事では、ローン中の車を売却するための必須知識である「所有権留保」の仕組みから、売却額がローン残高に届かなかった場合の救済措置「ツインローン」まで、業界の裏知識を包み隠さず公開します。
ステップ1:まずは「車検証」の所有者欄を見ろ
売却できるかどうかを確認するために、まずは車検証(または電子車検証の記録事項)を見てください。
確認すべきは、真ん中あたりにある「所有者の氏名」という欄です。
パターンA:所有者が「自分(または家族)」の場合
銀行のマイカーローン(無担保型)を使っている場合、ここが自分の名前になっています。
この場合は、何の問題もありません。
ローン会社への連絡も不要で、自由に売却・名義変更が可能です。
(※もちろん、売却後もローンの返済義務は残りますが、車の売却手続き自体には影響しません)
パターンB:所有者が「ディーラー」や「信販会社」の場合
ここが「トヨタモビリティ〇〇」や「オリコ」「ジャックス」などの会社名になっている場合。
これを専門用語で「所有権留保(しょゆうけんりゅうほ)」と言います。
これは「ローンを完済するまでは、車の持ち主はローン会社ですよ(勝手に売らせませんよ)」という担保設定です。
この状態の車を売るには、以下の手順で「所有権解除」を行う必要があります。
ステップ2:売却額とローン残高の「収支」を確認する
所有権がついている車を売る場合、原則として「売却と同時にローンを一括返済」しなければなりません。
まずは一括査定などで「今の車の査定額」を出し、ローン会社に電話して「一括返済額(残債)」を確認してください。
その結果によって、天国と地獄に分かれます。
ケース①:アンダーローン(査定額 > ローン残債)
【例】査定額:200万円 / ローン残債:150万円
このケースは「勝ち」です。
車を売ればローンは消滅し、手元に現金が残ります。
- 買取店が、査定額の中から150万円をローン会社に代理返済します。
- ローン会社から「所有権解除書類」が届き、名義変更が可能になります。
- 差額の50万円が、あなたの口座に振り込まれます。
あなたは何もする必要はありません。すべて買取店が代行してくれます。
ケース②:オーバーローン(査定額 < ローン残債)
【例】査定額:100万円 / ローン残債:150万円
問題はこちらです。
車を売っても50万円足りません。ローン会社は「全額返済」が確認できない限り、絶対に所有権解除の書類を出しません。
つまり、不足分の50万円をどうにかしない限り、車を売ることすらできないのです。
【プロの裏技】現金がなくても売れる「ツインローン」とは?
オーバーローンの場合、不足分を現金で用意できれば話は早いですが、急に何十万円も用意できないことのほうが多いでしょう。
そんな時に使えるのが、中古車業界特有の「ツインローン(またはレスキューローン)」という仕組みです。
これは、「不足分の借金(残債)を、次の車のローンに上乗せする」という方法です。
例えば、次に「100万円の中古車」を買うとします。
そこに、前の車の「不足分50万円」を上乗せして、「合計150万円のローン」として組み直すのです。
ツインローンのメリット
- 手元の現金が0円でも乗り換えができる。
- 月々の支払いをリセット(再計算)できるので、家計が楽になる可能性がある。
注意点
- 「次の車を買う」ことが前提のローンなので、車を手放すだけ(売却のみ)の場合は使えません。
- 審査は通常のローンより少し厳しくなります(借入額が増えるため)。
- すべての買取店が対応しているわけではありません(大手や専門店は対応していることが多いです)。
もし「ローンが残っているから売れない…」と諦めているなら、まずは買取店に「オーバーローンでも、ローンの組み替えで対応できますか?」と相談してみてください。
まともな業者なら、必ず解決策を持っています。
自分で手続きするのは損!プロに「丸投げ」すべき理由
稀に「自分でローンを完済して、所有権解除をしてから査定に出したほうが高いですか?」と聞かれることがありますが、答えはNoです。
所有権解除の手続きは非常に面倒です。
- ローン会社に完済証明を依頼する
- 送られてきた書類に実印を押して返送する
- 譲渡証明書や委任状を取り寄せる…
これらを個人でやると平気で2〜3週間かかります。
その間に、中古車相場が下がってしまったら本末転倒です。
買取店は、こういった手続きのプロフェッショナルです。
彼らはローン会社専用のデスクと繋がっており、電話とFAX一本で手続きを進められます。
「ローン残債の処理も、名義変更も、すべてお任せします」
そう伝えて丸投げするのが、一番早く、かつ相場下落のリスクを避けられる賢い売り方です。
結論:まずは「今の価値」を知ることから
ローン中の車を売るか迷っている人の最大の不安は、「いくら残るのか(あるいはいくら足りないのか)分からない」ことだと思います。
まずは一括査定で「今の愛車の最高額」を出してみてください。
そして、ローン会社のマイページか電話で「一括返済額」を確認してください。
この2つの数字が出揃って初めて、「売るべきか」「乗り続けるべきか」の正しい判断ができます。
想像よりも高く売れて、お釣りが来るケースも珍しくありませんよ。
